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玄関のドアにペンキを塗った。桟があるので、多少めんどうだったけれど、イメージ通りに仕上がったと満足している。
玄関はその家の顔だからと、立派に、重々しく、格調高く、と考える人もいるだろうが、そんな玄関は、私には似合わない。楽しく、明るく、ある落ち着きはあって、何よりも人が入りたくなるような、玄関というより、そんなドアがいい。
一昨年、アイルランドに行った時、ジョージアン様式の入口を沢山見た。まるで幼稚園で使うクレヨンのような、単純な赤とか青、緑などにべったり塗られているが、ドア上部は優雅な半円形のファンウィンドウに飾られ、両脇には細い柱。建物自体が落ち着いた色なので、とてもきれいだった。個人の家の入口も、質素であっても、どこか楽しげ。ペンキの色選びに、生活を大切にしている様子が伝わってきて楽しかった。
私は、すっかりアイルランドが好きになった。一番感動したのは、人々の目線が私と同じ高さにあると感じたこと。上から見下さない。下から見る卑屈さもない。あなたと私は同じ人間、という目線だ。
短い旅行で、どれほどのことが分かったのか疑問だが、帰国してから、日本人の中にアイルランド大好き人間が、驚くほど沢山いることを知った。そして、私の感じ方がそれほど的外れではなかったような感触を得ている。
私は、塗りあがったドアを見ながら、このドアから家の中に入ってくる友人のことを考えている。最後まで塗れたのは、その楽しみがあるからだ。