私のアトリエは二階にあって、窓の外すぐ近くに、「いろはもみじ」が枝を伸ばしている。赤い芽吹き、赤い花、赤いプロペラのような種。秋の紅葉だけでなく、もみじはこんなにも赤くなりたがっているのか、と思う。このもみじ、よほど場所が気に入ったのか、7年前に移植してからぐんぐん育っている。それに、今頃になると、一節しかない小さな実生のもみじの赤ちゃんが、庭中に顔を出す。その場所で大きくなられても困るが、抜いてしまうのも寂しい。そこで、私はせっせとその苗を植木鉢に寄せ植えする。友人の家にも養子に出していて、「今年も、かわいい葉がでましたよ。」なんて知らせが入ると、嬉しい。
今は柑橘類も花盛りだ。私が育った東京の家には、祖父が徳島から取り寄せたという柚子の樹があって、ひところは何千という実をつけた。移植を二回繰り返して小さくなってしまったが、それでも私はその柚子を死守していて、毎年柚子ジャム作りを楽しんでいる。
父は苗木を植えるのが趣味だった。主に雑木と言われるような樹が多く、「自然な感じがいいだろう!」と言って、せっせと水遣りをしていた。父が亡くなって、私は好きな樹だけ、スペースが許すだけの樹をもらった。7年前に庭造りをした時に来てくれた植木屋の親方との会話が耳に残っている。「あの樹は、どうしましょうか?」と親方。「もうスペースが無いから、諦めましょう。」と私。・・・「やっぱり、移植してください!」と私。「そうでしょう!あれはいい樹ですよ。」と満面の笑顔の親方。それは、「ごんずい」という樹。なかなか個性的で、庭に厚みを出してくれている。
私の庭は、3軒のお隣さんに囲まれている。「おはようございます!」や、「こんにちは!」と庭越しに挨拶をするのが楽しい。それでも、見えすぎはお互いに困る。お隣さんに迷惑がかからないくらい、家の明かりが見え隠れするくらい、風が通るくらいがちょうどいい。
シルバーの植木屋さんをやっている友人に手伝ってもらいながら、この庭を出来るところまで守っていきたいと思っている。